枷            著者:日置徳尚さま


足枷が私に絡み付く――。


私はもがいている。


足枷を付けたままこの沼から這い出そうと――


――もがいている。

暗い、星も見えない曇った夜だった。

夜は当たり前だが暗かった。

開け放した障子は外と部屋との境界線を曖昧にし闇を招き入れるようだった。

灯篭はてらてらと心もとなく明かりを震わせていた。

「愛しているよ」

男の指が私の足に絡みつく。

男が着物の裾をめくりながら私のうじなに口付た。

私は男の手を払った。

「今日は、駄目です」

私は男から離れようと体を起こした。

「何故だい、つれないね」

男は私の髪をもてあそび灯篭に照らして自分の顔に影を作った。

私の短い髪に男は顔を押し付けた。

「あなたを愛してるからですよ、松平様」

私は私の髪をもてあそぶ男を見つめた。

その顔は灯かりに照らされ影が浮かんでいた。


「なら、いいじゃないか」


「私はもうじき、結婚するのです」


私の言葉に髪をもてあそぶ手が止まった。

「……そうか」

私は男に体を預け目を閉じた。

男の体温が感じられる。

男が再び私の髪を触り始めた。

「相手は誰だ」

「……時尾です」

「……そうか」

私の髪を触る手が離れた。

「…どうしたんです」

「ん、愛してるぞ、斎藤」

あなたはいつも笑いながら嘘をつく。


―――それでもいいです。

――それでも私はあなたを愛していますから。


愛している、と囁きながら結婚を止めようともしない。

それでも、私はそんなあなたを愛しています。


「……斎藤、お前に名前をやる」

そしてきつく抱きしめられた。

「……名前、ですか」

私は閉じていた目を開いた。

「あぁ、……『藤田五郎』ってのはどうだ」


―――『藤田五郎』


「嫌か」

「いえ、良い名です。大切にします、松平様」

「そうか」


「愛しているぞ、藤田――」


そうしてあなたはまた一つ私に枷をかけた。


私はあなたに溺れる。

足枷を付けた私は――あなたに溺れる。



斎藤は『藤田五郎』と言う名を殊のほか大切にしたと言う―――。









あぁぁぁぁ・・なんというこの・・物静かで、なんともいえない艶かしい・・・・
松平さまは雅な方なので・・・言葉とか・・動作とかに気品がでてて・・
それに抗えない斎藤さんがまた・・・すっごく色っぽくて・・・はぁぁぁ〜(溜息)
はじめて読ませて頂いた時、脳内にビビビッ!!ときました。はい・・・
お話の流れ方がも雰囲気があって・・・まじでお気に入り強奪作品第一号です☆★☆(ニヤリ)

ありがとうございましたぁぁ〜日置さま♪



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