木漏れ日の下で

                     紫緒 匡



































まだ日野の田舎でのらりくらりとタダ飯食らいを決め込んでた時分。

俺はまだ24歳。あいつなどは19歳の若造だった。



「永倉さんーー、永倉さーーん」

稽古をサボって木陰で昼寝してると、やる気のない呼び声が俺の名を呼んでる。

ああ、こいつはこの前転がり込んできた変な若いのか。

と、俺も十分若造であったが、更に輪をかけて若造だった奴の顔を思い出した。



斎藤一と名乗っていたが、時々呼んでも返事をしないところを見ると本名でもないらしい。

剣の流儀も一刀流だが無外流だか太子流だかとんと見分けがつかぬごった煮剣法で、効き手もぎっちょ。

構えも払いもまるで逆だから受けるこっちは非常に遣りづらい。

普通ならぎっちょは矯正されるもんだが、親の教育がなっちゃいなかったのか、本人の性格が曲がってたせいなのか、もしくは頑固な性質なのか。

とにかく何にたいしてもこだわりがなく、その割には几帳面な奴で。


斜に構えてる風情があるかと思えば、どこか従順だ。


とにかく一言で言えば変わってた。

そしてそれはこの試衛館道場においては普通に、至極当然のように受け入れられる。


ここはそんな奴らの吹き溜まりであった。




「おーい、ここだここだ」

「・・・・・・なんだ、いらしたんですか」


俺が手を振って木の陰から顔を表すと、斎藤はたいして感慨もなく表情の乏しい顔でそう言った。


「なんだ、って俺を探してたんだろ?」

「ええ、一応」

「一応?」

「少し回っていなかったらそのまま戻るつもりでした」


しらっとして言う斎藤に俺は呆れる。


「なんつうか、冷めた奴だなあ」

「そうですか」

「なるほど、俺を探して来いって言われたから一応は言うこと聞くが別にどうでもいいから適当にぶらついてたってか」


俺が皮肉げに言っても斎藤の表情はぴくとも動かない。

小憎らしい面だ。

総司に言わせりゃ「とっても可愛い」らしいんだが、こいつはまだ俺たちには慣れてなく決して打ち解けようともしない。

ノリも違って酒を飲んでも騒ぐでもなく歌うでもなく踊るわけでもない。

飲んでも変わらないその無表情。

ほんと可愛げのかけらもない。


「だってやる気がないもんを連れ戻してもしょうがないでしょう?」

「・・・・・・そりゃごもっとも」


こいつとは一生反りあわねえや、と俺は思った。

冷めてる奴っていうのはとにかくやる気がねえ。

生きることにも執着がねえ。

自分にも他人にも執着がねえ。

薄っぺらくて情がなくてとにかく信用ってものができねえ。


剣の腕は認めるが、俺はこういう奴は嫌いだった。



「そいじゃ俺はいなかったことにして帰れや」

「はい・・・・・・」

「? どうした」

「いや、ちょっと・・・・・・」


ふわぁ・・・・・といきなり人前であくびをしやがった。

その顔があんまり幼かったんで俺はちょっとだけ見惚れた。


「・・・・・・なんだかここ・・・・・・異様にぽかぽかしてますね」

「おう、昼寝には最適だろ?俺の一等地だ」

「はぁ・・・・・どうでもいいんですけど、ちょっと休ませてもらえますか」

「あ?」


斎藤は竹刀を下ろし、俺の背面にもたれかかる。

とろとろとしばらくは木漏れ日を眺めてまどろんでいたが、すぐしてすぅ〜っ・・・・・・と小さな寝息をたてて。


本気で眠り込んでしまった。


「・・・・・・おい」


取り残された俺は訳が分からず、無礼なこの若造の肩を揺らしたり、こずいたりしたが。

それでも一向にしてこいつは起きる気配がなかった。

どっか病気なのかと心配までして手を額にあて熱も測るがいたって平熱。

むしろひんやり冷たいぐらいだ。


「おい、何寝てやがるんだ、こら」


俺は頬をつついた。

ぷにっ・・・・・とまるでガキのような弾力。


「うん・・・・・・・」


眉間に皺を寄せ唸る斎藤がまだまだ寝たそうだったんで、俺は仕方なく指を引っ込めた。



「・・・・・・なんじゃこいつは・・・・・・」


こんな無防備に、無邪気なガキのような顔して眠りこけやがる。

俺は仕方なくその眠りが覚めるまで付き合ってやってた。


俺が先に寝てた場所に潜入され、先を越されて。

なのに俺は怒るより先になんだかくすぐってえ感覚に酔わされていた。


なんとなく、全く人に頼ることを知らねえ奴じゃないんだと分かったことでこいつが信用できるようになった。







そして今は慶応四年、三月。江戸_____


「永倉先生、ああ、こちらにおられましたか」

「ん?なんだ?俺か?」

「はい、話でこちらにいらっしゃると聞きまして・・・・・・」



今日もまだ姿を現さぬ近藤勇に苛立ちを当り散らしながら原田左之助と大久保主膳正の邸を出た直後のこと。

声をかけてきたその男は斎藤一の部下の者だった。


「お前がいるってことは斎藤も健在か」

「は、今は相馬俊明様のお邸でかくまって頂いております」

「本当にしぶとい奴だな、あやつは」


原田がそう笑みを浮かべる。

甲州での戦は俺たちが到着するのもまたず、城は無血開城。

敗走する俺たちはバラバラになってしまったが、あの鳥羽・伏見を生き残った奴はしぶとい。

あの時も俺とあいつがしんがりを務めたが、お互いにまだ生きている。


どうも俺は最初から奴が死んだなんぞ思ってなかったふしがあった。


「で、何か用か」

「いえ、あの・・・・・・」

「まさかあいつが怪我でもしたか」

「そうではなく・・・・・」

「ええい、はっきりせぬか!」


煮え切らない物言いに機嫌が悪かった俺たちはなおさら言葉がきつくなる。

気の弱そうなこの男はヒッと女のような悲鳴をあげた。


「な、永倉先生に来て頂きたいと!」

「・・・・・・は?」


思い切ったように答えたその男はおどおどしながら、間の抜けたような俺と原田の顔を伺う。


「・・・・・・そこに、原田先生も来てとはねえのか?」

「いえ、永倉先生お一人と」

「・・・・・あいつ、俺が生きてるって知らねえのか?」

「い、いいえっ!もちろんご存知で!」


聞けば斎藤も入れ違ってこの大久保邸に立ち寄っていたらしい。

そこで俺と原田の生存も確認出来たらしいのだが。

それにしても・・・・・・


「ああ、分かった」

「へ?なんだよ、八っあん」

「そら、左之、アレだ」

「・・・・・・・アレ?」


さっぱり分からねえと原田は首を捻った。


「こりゃ俺一人じゃなきゃあなあ」

「ちょっ・・・・・・なんだ?!アレって。おいっ!俺だって斎藤に会いてえ!!」

「どうせまた会えんだろ。今日は俺に譲れ」


駄々をこねる原田を宥めすかし、俺はその男に着いて行くことにする。

あの捻くれ者が俺に助けを請うとは結局のところ一つしか思い当たらなかった。


俺が吹き出して笑うと、おろおろしたそいつは更におろおろしまくってた。






聞けば相馬俊明というのは斎藤の姉の旦那だそうで、水戸藩の藩医をしている男だそうだ。

用意がいい斎藤は甲州から逃げのびる前から連絡を取り、かき集めた部下を引き連れてまっすぐこの邸を目指したらしい。

怪我人の手当て、食料も用意され疲れ果てた兵士たちはおかげでひと時の休息を得ることが出来たというから、俺はつくづくと斎藤一という男の手腕に感心した。

京では人を斬ることにしか才がないかと思っていたが、むしろ戦で別の潜んでいた才能を覚醒させたらしい。

奴には将器というものがあった。


・・・・・・俺はその前から原田と相談していたあることに、その斎藤も組み入れられねえかと考えていた。




「・・・・・・永倉さん?」


呼ばれて出てきた斎藤の姿は武装を解いてすっきりと髪も無造作に下ろしていた。


「よお、元気そうだな」

「なんで・・・・・・」


とあまりに不思議がるんで、俺は隣の男を睨んだ。


「おい、なんで?だってよ」

「す、すみません、俺が勝手に!」


ひたすらぺこぺこ頭を下げるそいつがかえって憐れで俺も許してやる。

おかげでこいつと再会できたのだから叱る理由がない。


「なんでか俺一人がご指名受けたんだがね、おい、いつまで立たせておく気だ」

「あ、はい。今騒がしくしてますがどうぞ」

「おお」


まるで自分の家のようにくつろいでいる斎藤は俺を通すと、まずは斎藤に従ってここまで着いて来た兵士たちに引き会わせた。

どいつもこいつもいい面してやがった。

まだ戦える男の面。


俺の顔を見ると怪我してボロボロな奴まで無理矢理起き上がって感涙にむせび泣きやがった。

ますます、俺はこいつらごと斎藤が欲しくなった。




「・・・・・・・大久保様のとこに行ってらしたんですか?どうでした」

「おお、今日もなしのつぶてだ。近藤さんも土方さんもいまだ来てねえとよ」

「そうですか・・・・・・」



俺に茶を出すなど無粋だと知っている斎藤は、湯呑みにとくとくと酒をついだ。

沢庵ぐらいしかないがと、俺たちはそれをつまみに乾杯した。


「他に何か噂は?」

「・・・・・・ああ、総司の奴は無事千駄ヶ谷で療養してるらしい」

「・・・・・・そうですか」


総司の名を出すと一瞬固まった斎藤は、しかし俺には何でもない顔しか見せなかった。

ただ無言で酒を一気に煽った。


「原田さんは元気ですか?」

「ああ、あいつが元気なくしたらもうこの戦も終えだよ」

「そうですね、会いたいなあ」

「おい、俺とは態度違うんじゃねえか?」

「なんでです?あんたとはここでもう会ってるじゃないですか」


それもそうだ、と俺も何を原田に嫉妬してんだが、別れ際の原田のことが言えない。



ふわぁ・・・・・・・・・・・・


斎藤が手を添えて大きくあくびを一つした。


「・・・・・・くく・・・・・・」

「え?なんです?」

「やっぱりな。どうりで俺を呼んだわけだ」

「?」


斎藤が不思議そうな顔をして俺を見る。

どうやら自覚がないらしいと俺は吹き出して笑った。



「いいからちょっと休んでろ。俺が起きててやるから」

「・・・・・・いいですよ。来た早々に何を・・・・・・」

「然るに、おまえさん全然寝てねえだろ」

「・・・・・・」


図星のようだ。

こいつは口下手だから言い返せないとすぐに押し黙る。


「ったく、人の顔見りゃいっつもふぁあふぁあ、あくびばっかこきやがって。これだきゃ昔っから変わりゃしねえ」

「・・・・・・しょうがないでしょう。なぜだかあんたの顔見ると途端に眠気が出るんだ」

「しっつれいな奴だ」

「だからごめんと・・・・・・」


と言いながらもまたふわぁあ・・・・・・と生あくびをかます。

その時の斎藤の顔は昔っから変わらない。

ガキ臭くてあどけない。


「・・・・・・・ここんとこ寝つけなくて」


とうとう白状した。

どうやら近侍の奴もそれに気付いていたんだろう。

部下は寝かせても自分は寝ないで一人あれこれと考えこんでる奴の様子に。

しかし、変な癖までよく知ってたもんだ。



「未熟者め」

「・・・・・・ええ、ごもっともです」


目を擦りながらも存外に素直な顔を見せた斎藤はどことなく雰囲気が変わっていた。



「・・・・・・なあ、斎藤」

俺は話すなら今だと思い立った。


斎藤に、俺たちと一緒に会津に行かないかと話した。

落ち合うはずだった大久保邸に未だ姿を現さぬ近藤と土方をここでずっと待つより、決戦の地に今からでも急いだ方がいいのではと語った。

それには斎藤も頷いていた。

時すでに遅しとなる前に、今ならまだ会津に入れるとそれは納得していた。


しかしもう一つの提案には斎藤は眉を潜めた。


「・・・・・・隊を脱けると?」

「・・・・・・まだ決めたわけじゃない。だが原田も同じ気持ちだ。甲州の戦で感じただろう。もう近藤勇は戦えねえよ」

「・・・・・・」


俺の言いたいことは斎藤にも分かったようだった。

甲州に入る前、甲州街道をゆく行列は一種異様ないでたちであった。

近藤勇は駕籠に納まり、土方歳三は馬にまたがり、それをおもだった隊士たちが護衛つかまつる・・・・・・といったそれは一昔前の「大名行列」さながらで。

旗本にとりたてられた近藤が故郷に錦を飾ったといえばそうだが、ことさら見せつけるようにゆっくりゆっくりと闊歩するそれはこれから戦に行く姿ではない。

寄る宿寄る宿で女郎を買いきって酒宴を開き、高井宿からはさらに一目を引くからと馬上の人となった。


はなから戦に勝つ気などはなかった。

華を散らせる前に故郷の人の目に立派な侍になった己を見せて歩くだけの行事だったとさえ俺には思えた。


しかし、そんなもんに付き合わされるこっちはたまったもんじゃねえ。


「・・・・・・永倉さんの言い分は分かります、しかし・・・・・・」

「俺たちもやる気のある奴らを集めてある!ここの奴らの顔を見て俺あ決心がついたってもんだ。斎藤、お前も一緒に来い。俺たちはまだ戦える!」

「・・・・・・ええ」


それは了承の答えだと俺は信じて疑ってなかった。


「よしっ!」

「・・・・・・」


肩を抱き寄せ喜ぶ俺に、斎藤は戸惑いながらも笑ってみせた。

正直、その顔に俺は面くらった。


「・・・・・・?」

「いや・・・・・・その・・・・・・」


俺を見上げる瞳に俺は照れた。

どうも調子が悪い。

こんな風に二人きりになると、普段は見せない顔ってものが現れる。

付き合い事体は長いはずなのに、こんな傍でこの顔を見たことは、もしかしたらついぞなかったかもしれない。


(・・・・・・総司の言ってた可愛いとはこれか・・・・・・)


見てるこちらが照れるほどに無垢な目で見つめられると早鐘みてえに心臓がばくばくしやがって。

無意識に回してた手が途端によこしまな下心のように思われないかと慌てて離し、不審がる斎藤に変な弁解をかます。


「悪いっ・・・・・・どうもここんとこ女っけがなくてな!」

「・・・・・・そりゃどういうことですか」

「いや、ちょっと変なむらっけが・・・・・・」

「俺に?」

「わ、悪かった!謝る!だから怒るなっ!なっ?!」

「・・・・・・」


斎藤は呆れた顔をしていた。

そりゃそうだ。


「・・・・・・俺もですよ」

「・・・・・・なに?」


しかしその後苦笑した斎藤は、わけがわからん俺にいたずらっけのある目を向けていた。

こんな顔も俺は初めて見た。


「女っけもなければ男っけもない。今ちょっと永倉さんにむらっけだしてました」

「・・・・・・はあ?」

「世も末ですねえ」

「・・・・・・はあっ?!」


聞いてる俺のほうがだんだんむかっ腹立ってきた。

しかしそれでも斎藤の奴が笑ってやがるから・・・・・・

俺は恐る恐る手を伸ばしてみた。


昔触れたことのあるその頬は今は少し痩せこけていた。

それを撫でると斎藤が瞳を閉じる。


「・・・・・・お互い、いつ死ぬか分かりませんから」

「ああ」


俺たちはこの行為に理由をつけたがっていた。

何でもいい。

俺がこいつに触れるのも、こいつが俺に抱かれるのも。

全てはたまたま今ここで会ってしまったからだと。


じゃなければ_______

俺たちはずっと背を向け合ったままだったろうに













「・・・・・・うっ・・・・・・ん・・・・・・・」


滑らかな肌を吸うと容易く紅い花が咲く。

俺の唇はがさついて皮まで剥けてたからさぞかし擽ったかっただろう。

乳首を吸うと痛がって体を捩った。



随分痩せたと思う。

俺の手が腰を掴むと両の指と指が届くのではないかというほどに細くなっていた。


体にはところどころ傷が走っている。

俺の体も似たようなものだったが、それでも斎藤の肌にそれがあるのが惜しくて、ついそれに舌を這わせた。


「やっ・・・ぁ・・・・・・んっ」


ぞわっと斎藤の肌が泡立つ。

俺は優しく癒すようにそれを舐め、震える躯に広い手を這わせた。

やはりささくれだったその手に斎藤の肌が切れてしまうのではないかと案じ、殊更優しく扱った。


「な、永倉さん・・・・・・」

「何だ」

「やだ・・・・・・もう・・・・・・・」


震えた声が助けを求めるように俺の名を呼ぶ。

顔を挙げると潤んだ瞳が縋るように見つめていた。


「お願いだ・・・・・・あんまり変に優しくしないでくれ」

「変にって、お前な」


俺が優しかったらそんなに変か、と俺は心外だったが、どうやらそういうわけじゃないらしい。

顔を寄せると斎藤の手が俺の背に回り、ぎゅうっと強く抱き締めた。


「・・・・・・早く欲しい・・・・・・もう・・・・・・いいから・・・・・・」

「・・・・・斎藤?」

「じゃないと俺・・・・・・」


じゃないと・・・・・・・?

どうなるというのだろう。

俺が戸惑ってると斎藤は自ら俺の唇を求め重ね合わせた。

挑発するように舌を挿し入れ、俺の舌に絡ませる。


くっつけられた胸から俺の心音が伝わるだろう。

こんな風にされて体が熱くならぬわけがない。



「・・・・・・斎藤・・・・・・・」

「っ・・・・・・」


無理矢理引き剥がしたせいで、俺の歯が斎藤の唇を裂いた。

血の味が口に広がる。

斎藤の血はこんな味なのか、と俺は妙な興奮を自覚した。


「・・・・・・いいんだな」

「っ・・・・・・」


俺はそれまで抑えていた欲情を解放した。

斎藤の長い脚を高々と抱え上げ俺の肩に担ぐ。


露になった秘部に俺のいきり立ったものを宛がうと、吸い込まれるように奥へと誘われていった。

中の強い締めつけに俺は気を抜くことも出来ず、体を進めると共に汗がぽたぽたと落ちる。


「ッ・・・・・アッ・・・ぁあああっ・・・・・・・」


斎藤のあげる苦痛の声に体を止めようとすると、斎藤は俺の腕を掴みふるふると首を横に振った。

濡れた瞳が大丈夫だと俺に伝えた。


「あっ・・・・・・はあっ・・・・・・っ・・・・・・」


苦痛とも快感ともとれる斎藤の喘ぎ声に俺は突き動かされるように中を蹂躙した。

俺のものを咥える斎藤の中はひどく淫らで、俺が動くと吸い付くように根元を締め付けてくる。


「も・・・・・・もっと・・・・・・」

「駄目だ、傷つける」

「いい・・・・・・から・・・・・・」


こいつは自虐趣味でもあったのか。

殊更に俺を煽って行為に激しさを求める。

俺は躊躇しながらもさらに腰を激しく突き動かした。


「ヒッア・・・・・アアアッ・・・・・ッ!」


斎藤の髪は結っていたものが解け乱れていた。

その様が更に欲情を煽り、俺はもう箍が外れたように激しく腰を打つ。


斎藤の前に手を伸ばしそれを扱くとつま先がピンと反り、震えて快感を伝えた。

耳を甘く噛み、中に舌を忍ばせ擽ると更に斎藤の声はいい声で鳴いた。



「あっ・・・・・・ア・・・・・・永倉・・・・・さん・・・・・・・・・・・・も、もう・・・・・・」

「一・・・・・・」


俺は今まで呼んだことのない名で奴の耳に囁いた。

それに弾かれたように斎藤の体が強張る。


俺はその締まりに根をあげてとうとう堪えきらなくなったものを放出した。

腕の中の斎藤はぐったりと身を預ける。


俺の手に温かいものが流れた。





”・・・・・ねえ、永倉さん”

”あ?”

”不思議だよね。・・・・・・昔っからあんたの前だと俺はよく眠れるんだ”

”知ってる”

”なんでか知ってた?”

”・・・・・・いや?”

”それはね・・・・・・”




意識が白濁して落ちていく中、斎藤が俺の腕の中で呟いていた。

聞き取るのが難しいほどか細くなっていくその声に俺が耳を寄せると、しまいにはそれが健やかな寝息に変わっていた。


まだ寒いから、俺は眠っている奴の体に着物を着せてくるむように抱いて寝た。

少しでも長く眠れるように、俺は眠らないで見てやっていた。


いつまでもこの寝顔を守ってやりたかった。


今だけでなく、これからもずっと共に____________















「・・・・・・何・・・・・・・?」


その報せを受けたのはそれからまだ3日もない頃だった。

斎藤一は残った兵を引き連れ先に会津に向かったという。


ようやく近藤も土方も姿を見せたと思ったら、今度は斎藤が姿を消した。

ずっと信じていた。

斎藤はこれからもずっと共に一緒にいると。


なのになぜ・・・・・・



そしてそれを知らせたのは今までいなかった土方歳三であった。



「やっぱりあんたを選ぶのか・・・・・・」

「・・・・・・どういうことだ」

「いや、違うな・・・・・・あいつは・・・・・」


俺は苦笑する。

自分ばかり気が急いていて、斎藤があの時ためらっていたことなど気にもかけなかったが。


(あいつは新選組じゃなきゃ駄目なのか)


意外と未練がましい奴だ、と俺は最後まで期待を裏切った斎藤をらしいとさえ思った。

そしてやはり同じ道を歩めない自分の頑固さも。



「土方さん、俺さ・・・・・・」



















その日、永倉は原田左之助と共に新選組を離隊する。

そして原田は彰義隊に加わり、永倉は芳賀宣道と共に靖共隊を結成。


急ぎ会津に向かったが戦況は期を逸し敵わず。

やむを得ずして宇都宮にて参戦。そこで負傷する_____


それでも永倉は会津を目指した。

しかし・・・・・・



4月25日、板橋にて近藤勇斬首。

5月17日、原田左之助、上野戦争にて負傷、死亡。

5月30日、沖田総司、今戸にて病死。

そして9月4日、

如来堂の戦にて山口次郎と名乗る新選組隊長率いる残留部隊の撲滅の報せを受ける。

少人数で多勢の西軍に攻められ壮絶な最期だったと聞いた。

永倉はその最期よりも、その山口次郎こと斎藤一が土方と袂を分かったことに驚いた。


その土方も、翌々年明治2年5月11日。

五稜郭、一本木関門にて戦死した。































「ふぅ・・・・・・」


その老人はステッキを下ろし、手頃と見た大木の影に腰を落した。

昔の名を捨て、今は杉村義衛を名乗るその老人は今は小樽の地にいた。


こうして木漏れ日のさす中、心を落ち着けているとひどく昔の面影のない己の姿に苦笑する。

なんとまあ、よくぞここまで永らえたもんだ、と。

老人の背は未だ曲がっておらず、足取りも確かでたくわえた白く長い髭と抜け落ちた頭髪さえなければ実年齢より十は若く見られただろう。

しかし老人の年齢はもう76歳に達していた。






晩年、さまざまな手記を残し今もなお、老人に当時のことを知りたがる者が集う。

老人はそれこそが役目とばかりに若者たちにそれを語ってみせた。



しかしその杉村老人にも知らぬことは多い。

あの時あれがこう考えてそうしたとか、あのあれは実はこうだったとか。

そんなことは老人すら知らぬまま謎に包まれた真実が見えぬままで・・・・・・。




ふとそんな時考える。

あの男であったら、儂よりもきっと多くを知っていたんだろうの、と。

言ってもせん無きことではあったが、未だに悔いることがあるとすれば。


会津まで辿り着きたかった・・・・・・

目指しても目指しても手が届かなかったあの地に今も心が残っていた。








影が落ち、

背後から男が声をかけてきた。






「ご老体、そちらよろしいかな」





杉村は何を?!と振り返り、たいして差がない同じ年寄りに「ご老体」などと呼ばれたことに憤慨する。



が、








ふわぁ・・・・・・・



寄りにも寄って泣く子も黙る杉村の前で堂々とした大あくび。








杉村は目を見開いた。



「・・・・・・お主・・・・・・」




その不逞な男は人の悪い笑みを浮かべそして反対側に腰を下ろす。



「相変わらず、昼寝場所選びがお上手ですな」



そう言ったその男は、杉村が何か言おうとする前に気持ちよさげにさっさと一人、寝息をたてた。


文句を聞くのは後だ、とばかりに。







「・・・・・・阿呆」





思わずこみ上げてくるものをすすって杉村老人は空を仰いだ。





涼しげな風が木々を揺らし、光が交錯する。

その様を眺めながら一人寝るのが好きだった。



けれどそれよりも何よりも。



一緒にこの寝息を聞いているのが好きだった。

この場所はいつも生き生きとした命の息吹が聞こえてる。



生きている優しい眠りがあったのだ。












2003/10/5


(参考 赤間倭子「新選組副長助勤 斎藤一」)





もう・・読んでいて、感動しまくりでえすっなんという落ち着いたふたりの間柄に・・・胸ドキドキです。
ちょっぴりほんのり苦いような・・・・ほんと素敵です>▽<(号泣)
私もこのふたりのご老人にまじって、優しい眠りを味わいたいですっ(キャッ★)
もうーーっサイコ―の贈り物ありがとうございますっ
紫緒さま〜〜(雄叫び)